来訪神とは
来訪神は年に一度、決まった時期に人間世界に来訪する神のことで、鹿児島県薩摩川内市甑島のトシドン、秋田県男鹿市のナマハゲ、鹿児島県十島村悪石島のボゼなど10件の「来訪神」がユネスコの無形文化遺産に登録されることになりました。
来訪神の中でも正月に家に来る神を歳神と言いますが、来訪神が特定の地域に目に見える形で人を介して訪れるのに対して、歳神は誰の家にでも訪れる神です。
来訪神の歴史
来訪神は日本古来の神であり、古来より伝承された地域の行事として人が仮面を付けたり仮装したりして家々を廻る民俗信仰なのですが、地域に伝わる多種多様の形があり、その由来についても不明なことも多いのです。
奈良時代初期に編纂された「常陸国風土記」の「筑波郡」の項には祖先の大神が諸国の神たちを巡り歩いていた時に、福慈(富士)の神に宿を頼むと「新嘗祭のために今家中が物忌をしてゐるところですので、今日のところは御勘弁下さい」と断られ、筑波の山に登って筑波の神に宿を頼むと「今宵は新嘗祭だが、敢えてお断りも出来ますまい」と答えてもてなしたことから、富士の山は雪に覆われて登ることのできない山となり、筑波の山は人が集い歌い踊り、神と共に飲み食い、宴する人の絶えることのない山となったそうです。
「常陸国風土記」の祖先の大神は来訪神であり、来訪神をもてなすことでその場所は栄えて豊かになり、来訪神をもてなさなければ栄えることが無いという信仰があったのです。
無形文化遺産に登録された来訪神
ユネスコ無形文化遺産に登録された来訪神は
- 甑島(こしきじま)のトシドン(鹿児島県薩摩川内市)
- 男鹿(おが)のナマハゲ(秋田県男鹿市)
- 能登(のと)のアマメハギ(石川県輪島市・能登町)
- 宮古島(みやこじま)のパーントゥ(沖縄県宮古島市)
- 遊佐(ゆざ)の小正月行事(山形県遊佐町)
- 米川(よねかわ)の水かぶり(宮城県登米市)
- 見島(みしま)のカセドリ(佐賀県佐賀市)
- 吉浜(よしはま)のスネカ(岩手県大船渡市)
- 薩摩硫黄島(さつまいおうじま)のメンドン(鹿児島県三島村)
- 悪石島(あくせきじま)のボゼ(鹿児島県十島村)
時代を超えて世代から世代へと受け継いできた年中行事が今でも行われている事、地域によって様々な特色があること、そして我が国の固有の伝統であり、人々の幸福や繁栄を願っていることなどがとても価値あることと認められたようです。
その他の来訪神
その他の来訪神として
- ミルク-沖縄県沖縄本島、八重山列島各地
- アカマタ、クロマタ – 沖縄県石垣市(石垣島)・竹富町(西表島・小浜島・上地島)
- マユンガナシ – 沖縄県石垣市(石垣島)
- フサマラー – 沖縄県竹富町(波照間島)
- アエノコト-石川県能登半島
- アンガマ-沖縄県八重山諸島
七福神も来訪神
恵比寿、大黒天、毘沙門天、寿老人、福禄寿、弁財天、布袋尊の目出度い七人の神の集合である七福神も来訪神なのです。
七福神と宝船
毎年正月になれば七福神が金銀財宝を満載した宝船に乗ってやって来る宝船の画は正月の縁起物として配られたり、額縁にして飾ってありますが、その七福神の行先は一軒一軒の家であり、「福の神」として訪れるのです。
七福神は日本とインド、中国の神の集合体なのですが、多くの異色の神が仲良く、そして福を配って廻るという親近感によって古くから親しまれ、信仰されてきたのです。
正月の朝日の出と共に漕ぎ出して皆の家を遊行する七福神は、七人揃って私達が望む全ての願いを叶えてくれるという頼もしい神なのです。