具足戒とは
具足戒とは出家した男女の修行者が守るべき戒律のこと。
具足戒の由来
釈迦の在世中は特に戒律などはなく、誰でも出家出来ていましたが、出家者にとって戒律が出来たのは、釈迦の教団が出来てから十三年目のことで、ある事件がきっかけになったそうです。
それは家系を絶やさないでほしいと母親に泣きつかれた比丘が、出家する前の妻と子供を作る行為をなすという事件のことでした。
それに対して釈迦は、「たとえ毒蛇の口の中に男根を入れることがあっても、女根の中に入れてはならない」とその比丘を呵責し、ここに初めての禁戒である淫戒(いんかい。淫をおこなってはならない)が制定されたのです。
この戒があるために我が国でも明治時代までは僧侶の妻帯は許されず、子供をもらってきて後継者として育てたり、弟子として入門した小僧を育成して後継者にしていたのです。
ある意味優秀な人材が寺院の後継者になったのであり、自分の子供が寺の後継ぎをするということ自体あり得ないことでした。
自分の子供を寺の後継ぎにするというむこと自体、執着というものかもしれれません。
具足戒の条件
大人の人が出家する場合には具足戒を受ける必要があります。
受戒する僧侶には、
- 責任を持って指導する和尚一人
- 受戒の儀式を主催する羯磨阿闍梨一人
- 受戒する人に問題がないか調査する教授阿闍梨一人
- 立ち会う僧侶七人
の合計十人の僧侶が戒壇上に立って儀式を行います。
具足戒の内容
具足戒とは「完全に備わった戒」という意味で、釈迦が制定したとされる戒です。
戒の内容は四分律(しぶんりつ)、五分律(ごぶんりつ)、十誦律(じゅうじゅりつ)、摩訶僧祇律(まかそうぎりつ)、根本有部律(こんぽんうぶりつ)などから知ることが出来ます。
出家者の男性、比丘が守るべき戒律は250戒、出家者の女性、比丘尼が守るべき戒律は348戒あって、生活の規律の細かいところまで決められていますが、そのうち四波羅夷法(しはらいほう)と言って破戒するとただちに教団から追放となり、再出家も許されないという四つの戒について説明します。
- 婬戒…性行為をしない
- 盗戒…他人のものを盗んではいけない
- 殺戒…生き物を故意に殺してはならない
- 妄語戒…嘘をついてはいけない
我が国の仏教の出家者
我が国の仏教は大乗仏教であり、小乗仏教国のように厳しい戒律を守っていないのが実情です。
明治時代以前までは肉食妻帯を禁じられていたのですが、明治5年に太政官布告という法律が出来てからは僧侶の肉食妻帯が認められるようになったのです。
現代では僧侶を目指す人は僧侶になるための修行期間は厳しい戒律を守りますが、僧侶になってからは戒律を守らないことが多いようです。
仏教では出家者の守るべき厳しい戒律の指針があるものの、実際の寺院では適用されていないのです。
江戸時代から続いている檀家制度が今の時代次々と破綻しているのは僧侶が尊敬できない、お金のことばかり言う、人の意見を全く聞かないなどの様々な要因によりますが、僧侶が戒律を守ることなく堕落していることが大きな要因であることは間違いありません。
戒律が何のためにあるのかということを今一度真剣に考える必要があるのです。
鑑真和尚の努力に報いるために
我が国に正式に仏教が伝わったのは538年もしくは552年と言われていますが、当時の仏教の戒律は不完全なものであり、出家者が免税されていたこともあって、税逃れのために得度を受けない私度僧と言われる出家者が多く、全く修行しないような堕落した僧が多く居たのです。
そのために唐より鑑真を招いて戒律が伝えられ、この戒律を守ることが出来る者だけが僧として認められることになったのです。
しかし鑑真が日本に到着するためには5回の失敗を繰り返し、6回目の渡海にしてようやくたどり着くことが出来ましたが、その間の苦労で両目が失明してしまったのです。
このようにして鑑真和上の命がけで我が国に伝えられた戒律の精神を無駄にしてはいけません。