ジャータカとは

ジャータカのイラスト

ジャータカとは紀元前3世紀頃に成立したとされる釈迦の前世の物語で、釈迦は輪廻転生と言われる生まれ変わりの中で、前世には人や牛・サル・鹿などの様々な動物の姿で生まれて修行を重ねた様子が3世紀頃に編纂されたもので、本生譚(ほんしょうたん)とも言われています。

輪廻転生はインドの思想

人は死んだらどうなるのかという単純な問いかけに対して、誰もが認めるような同じ答えは無く、様々な宗教がその教義によって死後の世界を説いています。

インドでは古代より地獄餓鬼畜生阿修羅人間天界の六道の世界を生まれ変わり死に変わりしているという思想があり、生前の行いの善悪の結果によって次の生が決定されるという自業自得の法則に支配されていて、仏教ではこの六道の世界を苦しみの世界であると見抜き、苦しみの世界から抜け出すためには悟りを得て解脱するしかないことを説いているのです。

前世とは

過去世の因縁のイラスト

前世とは三世と呼ばれる前世・現世来世の一つで前世とも言い、過去の世界もしくは過去に生まれ変わった世界のことです。

前世があるためには、魂の存在が必要であり、魂の乗り物として様々な生き物の肉体に宿るということを繰り返していると考えられています。

前世の行いの善悪によって次の生が決まるのであれば、動物や餓鬼などに生まれたら常に外敵の危険にさらされていて、自分の保身のことしか出来ないので善行を積むことが出来る機会が少なく、人間世界のように功徳を積むような機会が少ないので、何時までも同じ世界に生まれ続けるしかありませんので、一旦低い世界に行ってしまったら、上の世界に上がっていくことが困難になってしまうのです。

釈迦の前世

ジャータカは釈迦の前世が綴られた物語ですが、釈迦のように高尚な悟りを得ることが出来るような人ならば、きっと前世も素晴らしい生き方を繰り返していたはずだという思いと願いが込められて成立した物語であるとも言われています。

そういう意味ではインドに古くから伝わっていた説話を元にした作り話だと言うことも出来ますが、仏教的な色付けが濃く、イソップ物語やアラビアンナイトなどの世界各地の文学にも深く影響を与えている名作なので、それだけ多くの人の共感を得る内容だということなのです。

釈迦は人や動物などの姿としての前世の数々で悟りを得るための修行を果てしなく続けていたことは、悟りに到達することが如何に困難なことであり、現世だけでは完成しないということを物語っていて、私達が普通に考えればそのような悠久の時間の中で修行し続けるようなことは到底出来ないことですが、釈迦にとってはあっという間の短い時間だったのかもしれません。

ジャータカの内容

パーリ語で書かれたジャータカには547の物語が収録されていますが、その中の一部を紹介します。

薩埵王子(さったおうじ)

捨身飼虎のイラスト

法隆寺が所蔵する飛鳥時代の玉虫厨子(たまむしのずし)はタマムシの羽を使った装飾で有名ですが、その側面に描かれているのが捨身飼虎図(しゃしんしこず)でジャータカの物語の一つです。

「金光明経」で説かれる内容で、釈迦の前世である薩埵王子が飢えた虎とその7匹の子供のために崖の上から身を投げて自らの身体を布施したという物語です。

雪山童子(せつざんどうじ)

「涅槃行」に説かれる内容で、釈迦の前世である雪山童子がヒマラヤの山中で修行をしていた時に羅刹(らせつ)が唱えていた「諸行無常・是生滅法」の残りの半分を聞こうと、腹をすかせた羅刹のために身を投げることを約束して残りの「生滅滅已・寂滅為楽」を聞いて石に刻み、約束通りに崖から投身すると羅刹は帝釈天になって雪山童子の身体を受け止めて助け、将来仏になった時には私達を救って欲しいと願ったという物語です。

捨身月兎(しゃしんげっと)

ジャータカのイラスト

帝釈天が老人の姿になって動物達に施しを求めるとカワウソは魚を、サルはマンゴーを布施しましたが、釈迦の前世であるウサギには何も差し出す物が無かったために日に飛び込んで自分の身を布施すると、実は火は涼しいばかりで燃えることはありませんでした。

ウサギの布施に感銘を受けた帝釈天はウサギを月に上げたそうです。