虚空蔵求聞持法とは

虚空蔵求聞持法

虚空蔵求聞持法とは虚空蔵菩薩を本尊として修法する荒行で、一定期間のうちに虚空蔵菩薩の真言を百万遍唱えることにより、記憶力を増大させる方法です。

虚空蔵求聞持法の概要

求聞持堂のイラスト

虚空蔵求聞持法とは決められた作法に則って虚空蔵菩薩の真言「のうぼう あきゃしゃ きゃらばや おん ありきゃ まりぼり そわか」を1日1万回ずつ100日かけて100万回唱えるという修行法です。

一日中堂に籠って真言を唱え続け、しかもその数を数えながら唱え続けるのですから、とにかく集中することが大切なのですが、悪魔や睡魔が次々と襲い掛かるのを振り切りながらの修行では、途中で数が分からなくなってしまってやり直すこともあるのです。

この修行法を成満した者はあらゆる経典を瞬時に理解して記憶する能力が得られるという修行法で、膨大な量の経典を記憶するための修行として知られているのですが、成満することが大変に困難で、一歩間違えば発狂、死と隣り合わせの荒行です。

虚空蔵求聞持法は何が起こっても途中で絶対に止めてはいけないという荒行で、常に短刀を準備しておいて、止めるのなら切腹という覚悟が必要なのですから、挑戦したけれど気が狂ってしまって廃人になってしまったということもあるのです。

所依の経典

虚空蔵求聞持法のイラスト

虚空蔵求聞持法の所依の経典は「虚空蔵菩薩能満所願最勝心陀羅尼求聞持法」で、8世紀初めに道慈(どうじ)によって伝えられたと言われています。

虚空蔵菩薩を念じて記憶力を得る法で、真言宗の開祖である空海に多大なる影響を与えたと言われています。

弘法大師空海の「三教指帰」(さんごうしいき)には

「ここにひとりの沙門あり、余に虚空蔵求聞持を呈す。その経に説く、もし人、法によってこの真言一百万遍を誦すれば、すなわち一切の教法の文義、暗記することを得る」と記されています。

無限の記憶力

記憶力のイラスト

釈迦が無限の輪廻転生の間にも修行を続け、今生にて壮絶な修行の果てにやっとたどり着いた悟りの内容は、長きに亘って口伝の法として語り継がれ、後に膨大な量の経典になったのですが、修行僧達は自ら仏法を理解し次の世代に伝えていくために、多くの経典を読んで覚える必要があるのです。

昔から名僧と言われる高僧大徳の方々は、難解な経典でも一度目を通しただけで暗記する驚異の記憶力を持った人が多いのですが、そういった才能は、修行の結果として身に付けたものなのです。

仏教の修行の究極の目標は仏になることであり、仏になれば神通力も身に付けて、人間の能力を超えてしまうのですから、仏教の修行法の中には無限の記憶力を身に付ける修行もあるのです。

私達の日常の生活の中でも例えば勉強や試験の時に、一度見たら決して忘れない記憶力があれば…と誰もが思うほどの優れた能力が仏教の修行で身に付けることが出来るのですから、難行苦行の荒行であっても挑戦する人が後を絶たないのです。

虚空蔵菩薩とは

虚空蔵菩薩

梵名のアーカーシャガルバは「虚空の母胎」という意味を持ち、その漢訳が「虚空蔵」であることから、「虚空」とは宇宙につながる大空のような空間のことで、「蔵」は入れ物を意味し、広大な宇宙のような無限の智慧と記憶と慈悲を持った菩薩であります。

虚空蔵菩薩が無限の智慧と記憶と慈悲を持った菩薩であるが故に、虚空蔵菩薩を信仰すれば無限の智慧と記憶力を授かりますし、虚空蔵求聞持法を修法すれば無限の記憶力が身に付くのです。

空海と虚空蔵求聞持法

山野を修行する弘法大師空海のイラスト

弘法大師空海も若い時に大学を飛び出して求道の道を歩みましたが、高知の室戸岬の洞窟、御厨人窟に籠もって虚空蔵求聞持法を修したという話は有名です。

山岳修行の日々を過ごし、高知の室戸岬の崖上に座禅を組み、虚空蔵求聞持法を修行していた時に明けの明星である金星が口の中に飛び込んでくるという不思議な体験をしました。

明けの明星が口の中に飛び込んでくるという体験こそが虚空蔵求聞持法の真髄であり、明けの明星は虚空蔵菩薩の化身とされて、明星天子、大明星天王などと呼ばれることもありますので、この体験こそ虚空蔵菩薩と一体化した瞬間であり、轟音がして明星が飛来して、体が爆発して粉々に飛んでいくような物凄い体験なのです。