餓鬼とは

餓鬼道のイラスト

餓鬼とは衆生が生まれ変わりする輪廻転生の六道の内、下から2番目の世界で、最下部の地獄の上にある世界のことで、仏教では行ってはいけない世界の三悪趣(地獄、餓鬼、畜生)に含まれます。

餓鬼の特徴

買占め餓鬼

餓鬼は手や足がやせ細って腹だけが異常に膨れている栄養失調の様相を呈し、常に飢えと渇きに苦しみ、水や食べ物を求めてさまよい歩き、時には餓鬼同士で争い、落ちている食べ物など何でも口に入れようとするが、火が噴き出したり吐き出したりして、決して満足できない。

地獄の世界と比べて日々の責め苦が無いので苦しみは少ないが、動物の世界と比べて食べ物に対する自由が無いので、満たされるということが決してない。

餓鬼の由来

仏教に於ける餓鬼は常に飢えと渇きに苦しむ世界であり、生前中の悪事の結果として地獄で苦しみ続けることと同様に、生前中の悪事の結果として餓鬼界に生まれ変わって苦しみ続けるのです。

餓鬼の原語である preta (プレータ)は元々、死者の霊のことを指していましたので、鬼となって悪事を働く霊としての存在であったものが、仏教の世界で餓鬼になったものと思われます。

餓鬼の雑学

我慢する事

子供が食べ物をガツガツと食べる様子が「餓鬼」に似ることから、生意気な人やガツガツと貪る人に対して軽蔑した言い方として「クソ餓鬼」と呼ぶことがあります。

「茶碗を叩くと餓鬼が依ってくる」とは昔から言われていることで、人を呼ぶために茶碗を箸で叩いたり、楽器の代わりに叩いたりすれば餓鬼が集まってきます。

餓鬼は喧嘩をしたり奪い合ったりする時の音に敏感で、その時のおこぼれを貰うために集まって来るのです。

またご飯をよくこぼしたり落としたり、或いは食事のマナーが悪い人の傍に寄ってきて、こぼれた物を奪い合います。

餓鬼の居る場所

三千大千世界

餓鬼の世界は私達衆生が住むとされる閻浮提の下、500由旬にあり、長さ広さは36000由旬と言われています。

餓鬼の原因

仏教に於いて三毒と言われ、克服すべき最も大きな煩悩は「貪瞋痴」であると言われ、「貪」は貪りの心、「瞋」は怒りの心、「痴」は無智の心ですが

  • 「貪」は貪りの心…餓鬼界につながる
  • 「瞋」は怒りの心…地獄界につながる
  • 「痴」は無智の心…畜生界につながる

餓鬼に生まれ変わる要因としては、生前中に貪りの心をむき出しにして、自分一人だけが満足したり、必要以上の物を欲しがったり、人の物を盗ったり、人に対して施さなかったという貪りの結果として餓鬼道に堕ちるのです。

餓鬼は常に空腹で我慢できずに自分だけが食べようとして争いをして、他に対して施すようなことを決してしないので、仏道の実践が出来ずに悪事を積み重ねるだけとなってしまうのです。

施餓鬼とは

施餓鬼のイラスト

施餓鬼とは餓鬼道に堕ちて苦しむ餓鬼や諸々の精霊に対しての供養をすることで、実際に食べ物を供え、寺院では日課として行ったり、お盆の行事として行うこともあります。

常に空腹の餓鬼であっても施された食物だけは食べることが許されているので、施すことにより、餓鬼に対して施しの大切さを知ってもらい、仏法に目覚めて救済されることを目的としています。

餓鬼の種類

餓鬼には生前中の行いに応じてたくさんの種類が居ます。

「阿毘達磨順正理論」による分類

阿毘達磨順正理論によりますと、食べ物を全く食べることが出来ない無財餓鬼と、少しでも食べることが出来る有財餓鬼の2種類があるそうです。

  • 無財餓鬼 …施餓鬼供養されたもの以外全く 食べることができない
  • 少財餓鬼 – 人間の糞尿や嘔吐物、屍など、不浄なものを飲食することができる
  • 多財餓鬼 – 人の残した物や、人から施されたものを食べることができる

「正法念処経」による分類

「正法念処経」によれば36種類の餓鬼が存在します

  • 鑊身(かくしん)餓鬼…私利私欲で動物を殺し、少しも悔いなかった者がなる餓鬼。眼と口がなく、身体は人間の二倍ほども大きい。手足が非常に細く、常に火の中で焼かれている。
  • 針口(しんこう)餓鬼…貪欲や物惜しみの心から、布施をせず、困っている人に衣食を施さず、仏法を信じなかった者がなる餓鬼。口は針穴の如く腹は大山のように膨れていて、食べたものが炎になって吹き出す。蚊や蜂などの毒虫にたかられ、常に火で焼かれている。
  • 食吐(じきと)餓鬼…自らは美食を楽しみ、子や配偶者などに与えなかった者がなる餓鬼。荒野に住み、食べても必ず吐いてしまい、獄卒に無理矢理吐かされる。身長が半由旬もある。
  • 食糞(じきふん)餓鬼…僧に対して不浄の食べ物を与えたものがなる餓鬼。糞尿の池で蛆虫や糞尿を飲食するが、それすら満足に手に入らず苦しむ。次に転生してもほとんど人間には転生することができない。
  • 無食(むじき)餓鬼…自分の権力を盾に、善人を牢につないで餓死させ、少しも悔いなかった者がなる餓鬼。全身が飢渇の火に包まれて、どんなものも飲食できない。池や川に近づくと一瞬で干上がる、または鬼たちが見張っていて近づけない。
  • 食気(じっけ)餓鬼…自分だけ美食を食べ、妻子には匂いしか嗅がせなかった者がなる餓鬼。供物の香気だけを食すことができる。
  • 食法(じきほう)餓鬼…名声や金儲けのために、間違った説法を行った者がなる餓鬼。飲食の代りに説法を食べて、身体は大きく、体色は黒く、長い爪を持つ。人の入らぬ険しい土地で、悪虫にたかられ、常に泣いている。
  • 食水(じきすい)餓鬼…水で薄めた酒を売り、酒に蛾やミミズを混ぜて無知な人を惑わした者がなる餓鬼。水を求めても飲めない。水に入って上がってきた人から滴り落ちるしずく、または亡き父母に子が供えた水のわずかな部分だけを飲める。
  • 悕望(きもう)餓鬼…貪欲や嫉妬で善人をねたみ、彼らが苦労して手に入れた物を奪い取った者がなる餓鬼。亡き父母のために供養されたものしか食せない。顔はしわだらけで黒く、手足はぼろぼろ、頭髪が顔を覆っている。苦しみながら前世を悔いて泣き、「施すことがなければ報いもない」と叫びながら走り回る。
  • 食唾(じきた)餓鬼…僧侶や出家者に、不浄な食物を清浄だと偽って施した者がなる餓鬼。人が吐いた唾しか食べられない。
  • 食鬘(じきばん)餓鬼…仏や族長などの華鬘(けまん)を盗み出して自らを飾った者がなる餓鬼。華鬘のみを食べる。
  • 食血(じきけつ)餓鬼…肉食を好んで殺生し、妻子には分け与えなかった者がなる餓鬼。生物から出た血だけを食べる。
  • 食肉(じきにく)餓鬼…重さをごまかして肉を売った者がなる餓鬼。肉だけを食べ、四辻や繁華街に出現する。
  • 食香烟(じきかえん)餓鬼…質の悪い香を販売した者がなる餓鬼。供えられた香の香りだけを食べる。
  • 疾行(しっこう)餓鬼…僧の身で遊興に浸り、病者に与えるべき飲食物を喰った者がなる餓鬼。墓地を荒らし屍を食べる。疫病などで大量の死者が出た場所に、一瞬で駆けつける。
  • 伺便(しべん)餓鬼…人々を騙して財産を奪ったり、村や町を襲撃、略奪した者がなる餓鬼。人が排便したものを食し、その人の気力を奪う。体中の毛穴から発する炎で焼かれる。
  • 地下(じげ)餓鬼…悪事で他人の財産を手に入れて、人を縛って暗黒の牢獄に閉じ込めた者がなる餓鬼。暗黒の闇である地下に住み、鬼たちから責め苦を受ける。
  • 神通(じんつう)餓鬼…他人から騙し取った財産を、悪い友人に分け与えたものがなる餓鬼。涸渇した他の餓鬼に嫉妬され囲まれる。神通力を持ち、苦痛を受けることがないが、他の餓鬼の苦痛の表情を見続ける。
  • 熾燃(しねん)餓鬼…城郭を破壊、人民を殺害、財産を奪い、権力者に取り入って勢力を得た者がなる餓鬼。身体から燃える火に苦しみ、人里や山林を走り回る。
  • 伺嬰児便(しえいじべん)餓鬼…自分の幼子を殺され、来世で夜叉となって他人の子を殺して復讐しようと考えた女がなる餓鬼。生まれたばかりの赤ん坊の命を奪う。
  • 欲食(よくじき)餓鬼…美しく着飾って売買春した者がなる餓鬼。人間の遊び場に行き惑わし食物を盗む。身体が小さく、さらに何にでも化けられる。
  • 住海渚(じゅうかいしょ)餓鬼…荒野を旅して病苦に苦しむ行商人を騙し、品物を僅かの値段で買い取った者がなる餓鬼。人間界の1000倍も暑い海の中洲に住み、朝露を飲んで飢えをしのぐ。
  • 執杖(しつじょう)餓鬼…権力者に取り入って、その権力を盾に悪行を行った者がなる餓鬼。閻魔王の使い走りで、ただ風だけを食べる。頭髪は乱れ、上唇と耳は垂れ、声が大きい。
  • 食小児(じきしょうに)餓鬼…邪悪な呪術で病人をたぶらかした者が、等活地獄の苦しみを得た後で転生した餓鬼。生まれたばかりの赤ん坊を食べる。
  • 食人精気(じきにんしょうき)餓鬼…戦場などで、必ず味方になると友人を騙して見殺しにした者がなる餓鬼。人の精気を食べる。常に刀の雨に襲われている。10年~20年に一度、釈迦、説法、修法者(仏・法・僧)の三宝を敬わない人間の精気を奪うことができる。
  • 羅刹(らせつ)餓鬼…生き物を殺して大宴会を催し、少しの飲食を高価で販売した者がなる餓鬼。四つ辻で人を襲い、狂気に落としいれ殺害して食べる。
  • 火爐焼食(かろしょうじき)餓鬼…善人の友を遠ざけ、僧の食事を勝手に食った者がなる餓鬼。燃え盛る炉心の中で残飯を食べる。
  • 住不浄巷陌(じゅうふじょうこうはく)餓鬼…修行者に不浄の食事を与えた者がなる餓鬼。不浄な場所に住み、嘔吐物などを喰う。
  • 食風(じきふう)餓鬼…僧や貧しい人々に施しをすると言いながら、実際に彼らがやってくると何もせず、寒風の中で震えるままにしておいた者がなる餓鬼。風だけを食べる。
  • 食火炭(じきかたん)餓鬼…監獄の監視人で、人々に責め苦を与え、食べ物を奪い、空腹のため泥土を喰うような境遇に追いやった者がなる餓鬼。死体を火葬する火を食べる。一度この餓鬼になった者は、次に人間に転生しても必ず辺境に生まれ、味のある物を喰うことができない。
  • 食毒(じきどく)餓鬼…毒殺して財産を奪ったものがなる餓鬼。険しい山脈や氷山に住み、毒に囲まれ、夏は毒漬けと天から火が降り注ぎ、冬には氷漬けと刀の雨が降る。
  • 曠野(こうや)餓鬼…旅行者の水飲み場であった湖や池を壊し、旅行者を苦しめた上に財物を奪った者がなる餓鬼。猛暑の中、水を求めて野原を走り回る。
  • 住塚間食熱灰土(じゅうちょうかんじきねつかいど)餓鬼…仏に供えられた花を盗んで売った者がなる餓鬼。屍を焼いた熱い灰や土を食べる。月に一度ぐらいしか食べられず、飢えと渇き・重い鉄の首かせ・獄卒に刀や杖で打たれる三つの罰を受ける。
  • 樹中住(じゅちゅうじゅう)餓鬼…他人が育てた樹木を勝手に伐採して財産を得たものがなる餓鬼。樹木の中に閉じ込められ、蟻や虫にかじられる。木の根元に捨てられた食物しか喰えない。
  • 四交道(しきょうどう)餓鬼…旅人の食料を奪い、荒野で飢え渇かせた者がなる餓鬼。四つ角に住み、そこに祀られる食べ物だけを食べる。鋸で縦横に切られ、平らに引き延ばされて苦しむ。
  • 殺身(さつしん)餓鬼…人に媚びへつらって悪事を働いたり、邪法を正法のごとく説いたり、僧の修行を妨害した者がなる餓鬼。熱い鉄を飲まされて大きな苦痛を受け、餓鬼道の業が尽きると地獄道に転生する。