目次
錫杖とは
錫杖とは遊行僧が持つことを許された持ち物(比丘十八物)の一つの杖で、古代サンスクリット語ではカッカラ(khakkhara)と言い、有声杖、鳴杖、智杖、徳杖、金錫などと呼ばれます。
錫杖の形
錫杖には杖として使う長い錫杖と祈願や読経の時に使う短い錫杖があり、振ればシャカシャカと音がしますが、その音の様子から錫杖と言われるという説もあります。
柄の長い錫杖
長さが人の背丈と同じほどありますので、巡礼の時や山岳修行の時に杖の代わりとして、或いは動物除けとして有効です。
法螺貝が行者同士の連絡用に使われるのと同じように音を出す法具として使われることもあります。
山岳修行の時には足場が悪かったり不安定な場所を通る時に命を守ってくれる法具にもなります。
柄の短い錫杖
柄の短い錫杖は日々の勤行や御祈祷の時に使われて、信者さんのお加持に使われたりもします。
加持とは仏の大悲の力が衆生に加えられて、それを衆生が持つことにより、仏の加護を得ることで、神仏の加護を衆生に授けることです。
大僧正や徳を積んだ行者の錫杖には特別な力が宿るとされ、そういった錫杖でお加持をしてもらえることがありましたら、とても有難いことです。
遊環(ゆかん)の数
先頭に取り付けられた丸い環のことを遊環と言い、その数は6、8、12などです。
棒状の金属を輪にして丸めてあるものが多く、継ぎ目に隙間があるので、山歩きの時に落としてしまったりすることが多く、長く使えば輪の数が足りなくなっています。
継ぎ目の隙間あり錫杖
値段の安い錫杖を買ったら大抵の遊環は継ぎ目の隙間ありなので、振っていると隙間に他の輪が入って絡まってしまい、固まってしまって音が鳴らなくなりますので、時々知恵の輪を外すようにして外す必要があります。
継ぎ目が溶接された錫杖
継ぎ目を溶接したものは継ぎ目のない丸い環になっていて他の輪と絡まることがありませんのでとても使いやすく、外れてしまうこともありませんので紛失することが無いので使いやすいことが特徴で、値段が高いことが多いのですが、長く使うのであれば溶接品を選ぶと良いでしょう。
九條錫杖経とは
九條錫杖経とは錫杖の功徳を説いたものです。
九條錫杖経を唱える時
九條錫杖経は密教系や修験道などで唱えられ、勤行として、或いは御祈祷の時に唱えられ、真言宗の常用経典にも掲載されています。
唱え方としては時々錫杖を振りながら独特の節回しで唱えます。
九條錫杖経の内容
九条の内容になっていますので九條錫杖と言います。
九條錫杖(くじょうしゃくじょう)
[第一平等施会条]
手執錫杖 しゅじしゃくじょう
當願衆生 とうがんしゅじょう
設大施会 せつだいせえ
示如実道 じにょうじつどう
供養三宝 くようさんぼう
設大施会 せつだいせえ
示如実道 じにょうじつどう
供養三宝 くようさんぼう
[第二信發願条]
以清浄心 いしょうじょうしん
供養三宝 くようさんぼう
発清浄心 ほっしょうじょうしん
供養三宝 くようさんぼう
願清浄心 がんしょうじょうしん
供養三宝 くようさんぼう
[第三六道智識条]
當願衆生 とうがんしゅじょう
作天人師 さてんにんしん
虚空満願 こうくまんがん
度苦衆生 どくしゅじょう
法界圍繞 ほうかいいにょう
供養三宝 くようさんぼう
値遇諸仏 ちぐしょうぶつ
速證菩提 そくしょうぼだい
[第四三諦修習条]
當願衆生 とうがんしゅじょう
真諦修習 しんたいしゅうじゅう
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
俗諦修習 ぞくたいしゅうじゅう
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
一乗修習 いちじょうしゅうじゅう
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
恭敬供養 くぎょうくよう
佛寶法寶 ぶっぽうほうぼう
僧宝一體三寶 そうぼういったいさんぼう
[第五六道化生条]
當願衆生 とうがんしゅじょう
檀波羅蜜 だんばらみつ
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
尸羅波羅蜜 しりやはらみつ
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
セン提波羅蜜 せんだいはらみつ
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
毘梨耶波羅蜜 びりやはらみつ
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
禅那波羅蜜 ぜんなはらみつ
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
般若波羅蜜 はんにゃはらみつ
大慈大悲 だいじだいひ
一切衆生 いっさいしゅじょう
[第六捨悪持善条]
當願衆生 とうがんしゅじょう
十方一切 じっぽういっせい
無量衆生 むりょうしゅじょう
聞錫杖聲 もうしゃくじょうしょう
懈怠者精進 けだいしゃしょうじん
破戒者持戒 はかいしゃじかい
不信者令信 ふしんじゃりょうしん
慳貪者布施 けんどんしゃふせ
瞋恚者慈悲 しんにんしゃじひ
愚痴者智慧 ぐちしゃちえ
驕慢者恭敬 きょうまんしゃくぎょう
放逸者攝心 ほういつっしゃしょうしん
具修万行 ぐしゅまんぎょう
速證菩提 そくしょうぼだい
[第七邪類遠離条]
當願衆生 とうがんしゅじょう
十方一切 じっぽういっせい
邪魔外道 じゃまげどう
魍魎鬼神 もうりょうきしん
毒獣毒龍 どくじゅうどくりゅう
毒蟲之類 どくちゅうしるい
聞錫杖聲 もんしゃくじょうしょう
催伏毒害 さいぶくどくがい
発菩提心 ほつぼだいしん
具修万行 ぐしゅまんぎょう
速證菩提 そくしょうぼだい
[第八三道消滅条]
當願衆生 とうがんしゅじょう
十方一切 じっぽういっさい
地獄餓鬼畜生 じごくがきちくしょう
八難之處 はつなんししょ
受苦衆生 じゅくしゅじょう
聞錫杖聲 もんしゃくじょうしょう
速得解脱 そくとくげだつ
或癖ニ障 さくちにしょう
百八煩悩 ひゃくはちぼんのう
発菩提心 ほつぼだいしん
具修万行 ぐしゅまんぎょう
速證菩提 そくしょうぼだい
[第九回向発願条]
過去諸佛 かこしょぶつ
執持錫杖 しゅうじしゃくじょう
己成仏 いじょうぶつ
現在諸佛 げんざいしょぶつ
執持錫杖 しゅうじしゃくじょう
現成仏 げんじょうぶつ
未来諸佛 みらいしょぶつ
執持錫杖 しゅうじしゃくじょう
當成仏 とうじょうぶつ
故我稽首 こがけいしゅ
執持錫杖 しつじしゃくじょう
供養三宝 くようさんぼう
故我稽首 こがけいしゅ
執持錫杖 しつじしゃくじょう
供養三宝 くようさんぼう
南無恭敬供養 なむくぎょうくよう
三尊界会 さんぞんかいえ
恭敬供養 くぎょうくよう
顕蜜聖教 けんみつしょうぎょう
哀愍摂受 あいみんしょうじゅ
護持弟子 ごじでし
九條錫杖の一部訳
九條錫杖には錫杖の功徳が書いてありますが、その中でも錫杖の功徳が分かりやすい第6条についての解説です。
第6条には「ひとたび錫杖の音を聞けば、怠け者は精進し、戒を破るものは戒を守り、不信心な者は信心深くなり、貪る者は施しをするようになり、怒れる者は慈悲の心を持つようになり、愚痴を言う者は智慧を授かり、傲慢な物は恭しくなり、心が定まらない者は集中するようになり、たちまちに菩提の心(仏の心)を起こすようになる」
錫杖を持った仏
錫杖を持った仏として有名な仏は地蔵菩薩です。
地蔵菩薩は自らも修行しながら六道の広大な世界の救済をされています。
六地蔵として六道の救済に、水子地蔵として水子の救済に、更にはとげぬき地蔵、勝軍地蔵など、幅広く信仰されています。
錫杖の効果と使い方
錫杖は行者の杖として、或いは動物除けなどの目的で持つものですが、祈りの際にはリズムをとる大切な法具になります。
振り方には流儀がありますが、お経や真言に合わせて振っていれば形になってきます。
般若心経と錫杖
四国の八十八か所の巡礼では寺院をまわる度に般若心経と本尊真言、光明真言、大師法号などを皆で錫杖を振りながらお祈りしている光景をよく目にします。
般若心経と太鼓、あるいは錫杖は皆が気持ちを一つにするための大切な法具です。
真言と錫杖
真言を唱え続けるのに錫杖があれば、時間が経つのも忘れるぐらいに集中できます。
不動明王の真言を唱える-錫杖編です。