毘沙門天とは
毘沙門天は単独でもお祀りされますが、四天王の時には多聞天と言われ、東西南北の4つの方向の内、北方を守る守護神として、或いは七福神の時には宝船に乗って船頭の役割をしていたり、家族神としては奥さんが吉祥天女、子供が善膩師童子(ぜんにしどうじ)であったりと多方面に登場する天なのです。
毘沙門天の特徴
毘沙門天の特徴を知るには「毘沙門天王功徳経」が一番です。漢文で書いてありましたら、何が書いてあるのかよく分かりませんが、読み下しでしたら、ある程度は分かります。
毘沙門天の特徴は次のことで知れば分かってきます
- 手に持った持物
- 衣服
- 装飾品
- 顔の表情
- 眷属
- 仲間
- 住む場所
毘沙門天王功徳経によると
毘沙門天のことは毘沙門天王功徳経に書いてあります。弟子の阿難が釈迦に対して、「どういう因縁があって、毘沙門天王は体に甲冑を付け、左の手には宝塔を持ち、右の手には如意宝珠を持ち、両方の足で羅刹毘闍舎鬼を踏んでいるのですか」との質問に対して釈迦は
「毘沙門天王はその数7万8千億と言われる諸仏の中でも、仏法を護る兵士であり、左の手に宝塔を持っているのは、普集功徳微妙と言って、宝塔の中には8万4千の教えと12部経が納めてあり、それを見る者は大いなる智慧を得ることが出来、右の手に如意寶珠を持っているのは震多摩尼珠寶と言って飲み物、食べ物、衣服などの無限の財宝が湧き出し、体に甲冑を付けているのは、仏道修行の妨げとなる四魔の軍を防ぎ、邪鬼は悪業や煩悩を押さえつけるために踏んでいる。また藍婆と毘藍婆と言う2匹の鬼を従え、左の脇には天女がいて吉祥天女と言い、右の脇には1人の子供がいて善膩師童子と言う。もし毘沙門天王の姿を見たり名を唱えたり心に念ずるような者がいれば、果てしない輪廻転生の中で犯した罪を取り除いて、仏の位に至り、この世では無限の福を得ることができる」
と答えているのです。この経典の経緯はともかく、毘沙門天を知る上でとても大切なことが書いてあります。
毘沙門天を分かりやすく
神仏の特徴は神仏像におけるその姿格好や衣服、持ち物などで知ることが出来ます。毘沙門天の特徴は制作された年代や神社仏閣の地域性や信仰に左右されますので、これで決まりというルールはありませんが、大体の特徴はあるものです。
手の持ち物
毘沙門天王功徳経には左の手に宝塔、右の手に宝棒ということになっています
宝棒
毘沙門天王功徳経では右の手に如意寶珠を持っていて、「震多摩尼珠寶」と言い、飲み物、食べ物、衣服などの無限の財宝が湧き出すとあり、西遊記に出てくる孫悟空が持っている如意棒は伸び縮みなど自由に操ることが出来て、敵を倒すものですが、その如意棒に近いもので、仏の世界で使われる如意棒は、欲しいものが何でも手に入る不思議な棒なのですが、これは私達凡夫に対して必要な物を与えることにより、一時的な満足感と幸福感を与え、更に高いレベルの悟りに導き出すものです。
宝棒は時に武器としての三叉槍(さんさそう)、三叉戟(さんさげき)、槍などを持つこともあり、この場合には外敵の侵入を防ぐ役割としての武器です。
三叉槍、三叉戟は共に先端が三又に分かれた武器のことです。
宝塔
毘沙門天王功徳経では左の手に宝塔を持ってて、「普集功徳微妙」と言い、宝塔の中には8万4千の教えと12部経が納めてあり、それを見る者は大いなる智慧を得ることが出来るとあります。仏の智慧というものは、膨大な教えであり、毘沙門天はそれを分かりやすく説くことをしています。
毘沙門天が四天王の中でも多聞天と言われるのは仏法を最も良く聞いたという意味であり、毘沙門天が智慧の神と言われる所以なのです。
宝塔は持っていないこともあり、仏像が造られた年代と目的によって毘沙門天に期待される役割が変わってきます。
邪鬼
毘沙門天王功徳経では邪鬼は悪業や煩悩を押さえつけるために踏んでいる、とありますが、邪鬼の姿は私達の心の中にある煩悩であり、煩悩は108あると言われ、人を傷つけたり、恨んだり、妬んだりの煩悩は、悟りを得るのに大きな障害となります。毘沙門天はその煩悩を消滅させる実践を説いているのです。
毘沙門天に踏まれた邪鬼は面白おかしいほどに苦悩の顔や表情をしていますが、良く見てみますと踏まれていることを楽しんでいるようにも見え、毘沙門天を支えることに生き甲斐を感じているのではないかと思う程です。
たとえ邪鬼と言えども上から踏み続けることは今の時代ではパワーハラスメントであり、仏法でも禁じられている暴力行為を敢えてしているのは何故でしょうか。
それは邪鬼が毘沙門天に調伏されて仕えるようになったことを表わしており、決していじめの姿ではないのです。
兜跋(とばつ)毘沙門天が地天に足元を支えられているように、仏法では相手に苦しみを与え続けることは決して行わず、どんなに悪いことをしていた悪神でもやがては善神になることから、邪鬼もそういうことではないかと思われます。
毘沙門天は他にに藍婆(ランバ)、毘藍婆(ビランバ)という鬼を従えていて、これらの鬼は毘沙門天に仕えるための鬼なので、足元の邪鬼も同じく毘沙門天に仕え従うという役割も持っています。
火焔光背
火焔は火が燃えている様子を表しています。火焔光と呼ばれるこの火焔光背は、天部や明王のみが背負い、これは迦楼羅炎と言って、煩悩を焼き清める為のものです。
また毘沙門天の住む城では福徳が溢れ出ていて困るので一日三回焼いてあらゆる所に届けていることから、火を制している神であることが分かります。
やすらか庵でのお焚き上げの本尊は不動明王ですが、毘沙門天が天の神であるのに対して不動明王は地の神であり、両神が揃うことで大地と天をつなぐ役割を果たしてくれるのです。
甲冑
毘沙門天王功徳経では、毘沙門天王はその数7万8千億と言われる諸仏の中でも、仏法を護る兵士であり、体に甲冑を付けているのは、仏道修行の妨げとなる四魔の軍を防ぐためである、とありますが、相手を滅ぼす兵士ではなくて、仏法を護る兵士であることが大切で、毘沙門天と言えば大抵はいかつい顔をしていて、時には武器を持ったりという姿もあるのです。
毘沙門天は戦国時代の武将から戦いの神として熱烈な信仰を受けて、上杉謙信が度重なる合戦の中で熱烈な毘沙門天信仰で勝利の連続を納めたことは有名な話ですが、毘沙門天信仰は負けない信仰であり、その堅固な意思を表したものが甲冑なのです。
獅子噛(帯喰)
師子噛(ししかみ)は毘沙門天の腰のベルトを噛んだ状態で止めているもので、帯喰(おびくい)と言います。
写真はだんじりの師子噛ですが、師子が噛みついている姿であり、外敵に対して容赦なく噛みつくことで仏法を護っていて、ある意味毘沙門天は師子をも調伏して仏法守護の役目を与えているのです。
沓(くつ)
毘沙門天の姿はインドや中国の影響を受けていますから様々な姿がありますが、衣服についても同じことが言えて国と時代の影響を強く受けて造形されています。
沓は布、皮などで作られたもので、戦いの時には特に底が厚いものが使用されたようです。
天衣(てんね)
菩薩や天が身に付けている薄くて細長い布のこと。
脛当(すねあて)
脛は急所であり攻撃されると動けなくなってしまいますので、守るための防具のこと。
袴(こ)
下半身に着用する伝統的な衣類のこと。
裙(くん)
腰に付ける衣のこと。
腰甲(ようこう)
腰に付ける甲冑のこと。
篭手(こて)
上腕部から手の甲までを守るための防具のこと。
胸甲(きょうこう)
胸を守るための防具のこと。
毘沙門天の眷属
毘沙門天が中心として夫婦、家族の場合と、毘沙門天の眷属を伴う場合があります。
家族神
家族神としては妃の吉祥天、そして子の善膩師童子の三尊形式となりますが、本来の子供は五太子で、最勝(さいしょう)、独健(どっけん)、那吒(なた)、常見(じょうけん)、善膩師(ぜんにし)です。
吉祥天
吉祥天はヒンドゥー教の女神であるラクシュミーが仏教に取り入れられたとされ、功徳天、宝蔵天女とも呼ばれ、ヒンドゥー教ではヴィシュヌ神の妃とされて、仏教に於いては父は徳叉迦(とくさか)、母は鬼子母神(きしもじん)、夫は毘沙門天、妹は黒闇天(こくあんてん)、子は善膩師(ぜんにし)です。
吉祥天は日本では七福神に出てくる弁財天によく似ていることから混同されることがありますが、弁財天が琵琶を持って芸事の神とされるのに対して、吉祥天は中国・唐の貴婦人の姿で優雅な衣装に身にまとい、何でも願いが叶うとされる如意宝珠を手に持っていることが特徴です。
吉祥とは繁栄や幸福を意味して目出度いこと、良いことなどの幸せを司り、美貌の神としても尊崇されています。
善膩師童子
善膩師童子は毘沙門天を父に、吉祥天を母とした五人兄弟の末っ子であり、古来は末っ子が長男の役目をしていたと言われ、毘沙門天ファミリーの子供の代表として手には宝筺(ほうきょう)を持ち、宝筺とは硯箱のようなもので仏法を学ぶための道具で智慧の象徴でもあり、多聞天同様に学び聞いたことを全て吸収するという徳を備えています。
我が国では聖徳太子が神格化されていて、子供の頃から優れた人物であったことから聖徳太子の子供の頃の像と善膩師童子の像はよく似ています。
毘沙門天曼荼羅
京都の勝林寺には日本画家の田村月樵(1846-1918)によって描かれた毘沙門天曼荼羅が保存されています。
摺仏であり、版画なのですが、緻密な線が素晴らしく、毘沙門天の眷属が描かれた曼荼羅は他にありません。
内院中央
内院中央には毘沙門天と下に支える地天女と左右に二邪鬼、妃の吉祥天女と子の最勝(さいしょう)、独健(どっけん)、那吒(なた)、常見(じょうけん)、善膩師(ぜんにし)童子が描かれています。
第二院
第二院には下に韋駄天ならびに龍王、そして多数いる眷属夜叉たちの中でも選りすぐりの八大夜叉大将が描かれています。
外院
外院には二十八使者が描かれています。
八大夜叉大将
毘沙門天はインドでは暗黒界に住する夜叉鬼神の長とされ、毘沙門天が仏法に帰依すると同時に夜叉も帰依したとされます。
5千の数を超える夜叉衆の頂点となるのが八大夜叉で、毘沙門天に仕えて仏法を護持する役目を担います。
八大夜叉大将の名称は
宝賢夜叉
宝賢夜叉(ほうけんやしゃ)はマーニバドラとも言い、夜叉王のクベーラの兄弟で、クベーラに次ぐ地位を持つ夜叉です。
満賢夜叉
満賢夜叉(まんけんやしゃ)はプールナバドラとも言い、ヒンドゥー教ではクベーラに仕える夜叉です。
散支夜叉
散支夜叉(さんしやしゃ)パンチカ
衆徳夜叉
衆徳夜叉(しゅうとくやしゃ)シャタギリ
応念夜叉
応念夜叉(おうねんやしゃ)ヘーマヴァタ
大満夜叉
大満夜叉(だいまんやしゃ)ヴィシャーカー
無比力夜叉
無比力夜叉(むひりきやしゃ)アータヴァカ
密厳夜叉
密厳夜叉(みつごんやしゃ)パンチャラ
武器を持ち、勇敢な姿をしていて毘沙門天に帰依します。
二十八使者
毘沙門天に仕える夜叉としての八大夜叉大将の他には、二十八使者がいます。
禁呪使者
禁呪とは「まじない」のことで、火渡りや水垢離などの法力を使うことが出来る山岳修行を得意とする使者。
博識使者
物事を幅広く知っていて、知識が豊富であり、聞いたことを忘れない、智慧がある使者。
奇方使者
奇方とは不思議な効き目のある薬の処方のことで、飲食や衣服などを出現させる。
隠形使者
隠形とは姿を隠すことで、姿を隠して自分の好きな所に行くことが出来る能力のことで、天の宮殿に昇る法力を持つ使者。
香王使者
仏の位になれば全身から良い香りがしてくることから、香気を全身に薫らすことの出来る使者。
勝方使者
勝負に勝つ能力を身に着けた使者。
高官使者
高い位や地位を得たり出世する能力を身に着けた使者。
興生利使
衆生を含む一切の生き物に幸せを届ける使い。
二十八使者の中で唯一「使者」と言わない。
五官使者
生前中に犯した罪の罪状を知っている使者。
金剛使者
何よりも硬く動かない意思と心を持った使者。
座神使者
外敵や災難から身を護る能力を身に付けた使者。
持斎使者
心静かにして穏やかで居られる能力を身に付けた使者。
自在使者
自由自在に移動できる能力を身に付けた使者。
神山使者
神々の住む山に自由に行き来出来る能力を身に付けた使者。
神通使者
神と通じて神の意志を聞き取ることが出来る使者。
説法使者
山に籠って修行をし、正しい法を説くことが出来る使者。
総明多智使者
智慧分別が付き、多くの智慧を持つに至れる使者。
太山使者
長い寿命を身に付けた使者。
大力使者
大いなる力で悪を降伏させる使者。
田望使者
五穀の豊穣、豊作を守ってくれる使者。
多魅使者
人気と魅力を授ける使者。
読誦使者
仏法と真理に精通し、経典を読誦する使者。
左司命使者
人の行いを記録し、長寿を授ける使者。
伏蔵使者
地中の鉱物や宝石、宝物を探し当てる能力を持つ使者。
北斗使者
星に通じて福徳を授ける使者。
右司命使者
人の行いを記録し富を授ける使者。
龍宮使者
龍宮の宝物を授ける使者。
論議使者
政治、経済、社会などを論議し智慧を高めていく能力を持った使者。
毘沙門天の使い
毘沙門天の使いとは毘沙門天の代りに願いを聞き入れたり届けたりする役目の動物のことで、有名なのは虎で、ムカデも使いと言われています。
毘沙門天と虎
虎は一日で千里の道を走ると言われ、その行動範囲の広さや力強さから毘沙門天の御使いとして寺院に祀られることが多く、12日に一回廻って来る寅の日には良く願い事が叶うことから「寅の日詣で」と言って毘沙門天の寺院に参拝する人も多く、特に月初めの寅の日や、年始の初寅の日には「初寅大祭」を行う寺院もあります。
毘沙門天と虎の関係について…毘沙門天と虎
毘沙門天とムカデ
ムカデは足が多いことからお金周りが良くなる「お足が多い」ということで金運を上昇する役目と、前に進んで後ろには下がらないことから、勝負必勝の願いを叶えると言われて大切にされています。
ムカデは刺されたら痛い思いをしますし、グロテスクな形をしていることから害虫とされ、多くの人に好かれることはありませんが、ムカデは毘沙門天の御使いだと知れば殺生を慎むようになります。
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