嘘も方便とは

嘘も方便のイラスト

仏が衆生救済するための方法として相手のためを思うが故に嘘をつくこともあるということから、大きな善行を積むためには小さな嘘も時には必要であるという仏教用語。

仏教と嘘

戒律とは-イラスト

仏教に於いて守るべき戒律の五戒十善戒には「不妄語戒」が入っていて、「嘘をついてはいけない」と説かれています。

五戒とは

五戒とは

仏教を実践する人が守る戒律の中でも、釈迦の弟子として仏門に入った在家の人が性別を問わず守るべき五つの道徳のことです。

五戒は五つの戒から成り立ち、最も重要度の高い順から並びます。

  • 不殺生戒(ふせっしょうかい)…生き物を故意に殺してはならない
  • 不偸盗戒(ふちゅうとうかい)…他人のものを盗んではいけない
  • 不邪婬戒(ふじゃいんかい)…不道徳な性行為を行ってはならない
  • 不妄語戒(ふもうごかい)…嘘をついてはいけない
  • 不飲酒戒(ふおんじゅかい)…酒類を飲んではならない

五戒の中に不妄語戒が入っているのは嘘をつくことが悪業であり、社会では信用を失くし、仏の世界では徳を減らしてしまうからです。

十善戒とは

十善戒とは

十善戒とは仏教に於ける十悪を否定する形にした戒律のことで、不殺生不偸盗不邪淫不妄語不綺語不悪口不両舌不慳貪不瞋恚不邪見の十の戒律のことです。

十善戒の中に不妄語戒が入っているのは、嘘をつけばそれを隠すために更なる嘘をつき、次第に大きな罪になってしまいます。

仏教では嘘のない正しい言葉を使うようことが正しい修行につながります。

方便としての嘘とは

僧侶のイラスト

仏の仕事が衆生済度であるとしたら、無智なる衆生を仏の世界に救い上げるために様々な仏が居て、様々な方法を使っているのですから、一つの方法ということではなく、衆生済度に決まった方法がある訳でもありません。

仏にしてみれば欲望にまみれて無智なる凡夫を救うことは時間と労力を要する実に大変な事であり、法を説くだけでは聞かない、聞いても守らない者が多いので、衆生の煩悩を満たす願いを叶えながら法を説く、或いは嘘を承知の上で仏法に興味を持たせるなどの方便を使うのです。

救済という意味では仏に限らず医者でも患者に対して方便としての嘘をつくこともあり、末期癌の患者に対して真実を伝えると精神が崩壊する、生きる気力を無くしてしまうと判断した場合には、もちろん家族と相談した上でのことですが、真実を伝えない、或いは治りますよと嘘をつくことも相手のためを思えばの方法であり、実際にそのことで救われる人もたくさん居るのです。

不治の病の宣告を受けても絶対に治してやると立ち直る人も居れば、生きる望みを失ってますます病気が悪化する人も居るのですが、精神的に弱い人にとっては、たとえ嘘であっても医者から治ると言われたことによって生きる希望を持つことが出来るのならば嘘も使いようなのです。

相手を騙して利益を奪い取るような嘘ではなく、相手の幸せを願っての嘘は許されるものであり、嘘も方便の真意なのです。