目次
持戒波羅蜜とは
持戒波羅蜜とは菩薩が仏になるための修行である六波羅蜜の二番目の項目で、戒律を守ること。
戒とは
「戒」とは出家・在家を問わず仏教に帰依した者が自発的に守るべき生活の規範であり、破っても罰則が無いもの。
律とは
仏教の教団の中で出家者が守るべき決まり事であり、破った場合には最も重い処罰で教団追放になります。
中国仏教においては「具足戒」(ぐそくかい)とも呼ばれ、仏教が中国に伝来した際に、この「戒」と「律」をあわせて「戒律」と呼ばれました。
戒律の種類
仏教教団における戒律は出家、在家、男女などによって様々な規定がありました。
- 五戒、八斎戒…在家の男性[優婆塞](うばそく)と、女性[優婆夷](うばい)が守る戒律
- 十戒…未受戒の出家者の男性[沙弥](しゃみ)と、女性[沙弥尼](しゃみに)が守る戒律
- 250戒…受戒した出家者の男性[比丘](びく)が守る戒律
- 348戒…受戒した出家者の女性[比丘尼](びくに)が守る戒律
五戒について
五戒とは仏教を実践する人が守る戒律の中でも、仏門に入った在家の男性[優婆塞](うばそく)と、女性[優婆夷](うばい)が守るべき五つの道徳のことです。
戒律を守る者に与えられる仏弟子としての名前が戒名で、法名とも言います。
五戒の内容
五戒は五つの戒から成り立ち、最も重要度の高い順から並びます。
- 不殺生戒(ふせっしょうかい)…生き物を故意に殺してはならない
- 不偸盗戒(ふちゅうとうかい)…他人のものを盗んではいけない
- 不邪婬戒(ふじゃいんかい)…不道徳な性行為を行ってはならない
- 不妄語戒(ふもうごかい)…嘘をついてはいけない
- 不飲酒戒(ふおんじゅかい)…酒類を飲んではならない
八斎戒について
八斎戒とは在家の信者が六斎日という月の決まった日に、出家者が日頃守っている八斎戒を守ることによって、普段は中々守ることが出来ないであろう五戒よりも厳しい戒を実践することで、戒に対する姿勢を見直すと共に、厳しい戒を守り続けている出家者に対しての尊敬の念を高めます。
六斎日とは八日、十四日、十五日、二十三日、二十九日、三十日の合計6日のことであり、それらの日は戒律を保って精進する日として決められています。
六斎日とは「大智度論」によれば釈迦降誕以前のインドの国ではこれらの日には鬼神が悪事を働いて人々に病や災難を振りまく日ということで恐れられ、断食をすることで汚れを払っていたのですが、釈迦はこの習慣に対して「八つの戒を守り午後からの断食」をするように改めたのがその始まりなのです。
八斎戒の内容
八斎戒は五戒よりも厳しい内容になっています。
- 不殺生戒…生き物を故意に殺してはならない
- 不偸盗戒…他人のものを盗んではいけない
- 不淫戒…性行為をしない
- 不妄語戒 …嘘をついてはいけない
- 不飲酒戒…酒類を飲んではならない
- 不坐臥高広大床戒… 立派な寝具や坐具でくつろがない
- 不得歌舞作楽塗身香油戒…歌舞音曲を見たり聞いたりせず、装飾品、化粧・香水などで身を飾らない
- 不過中食戒…午後から食事をしない
十戒について
十戒とは仏教に於いて出家者の見習い男性[沙弥](しゃみ)と、見習い女性[沙弥尼](しゃみに)が守る十項目の戒律のこと。
20歳未満で出家したら沙弥、沙弥尼になり、その場合責任もって面倒をみる阿闍梨と、戒律を授ける戒師の元で戒律を受けます。
沙弥の十戒の内容
- 不殺生戒…生き物を故意に殺してはならない
- 不偸盗戒…他人のものを盗んではいけない
- 不婬戒…性行為をしない
- 不妄語戒…嘘をついてはいけない
- 不飲酒戒…酒類を飲んではならない
- 不著香華鬘不香塗身戒…化粧や香水、宝飾品などで身を飾らない
- 不歌舞倡妓不往観聴戒…歌や音楽、踊りを鑑賞してはいけない
- 不坐高広大床戒…立派な寝具や坐具でくつろがない
- 不非時食戒…正午以降に食べ物を摂ってはいけない
- 不捉持生像金銀宝物戒…お金や金銀・宝石類など、資産となる物を所有しない
具足戒について
大人の人が出家する場合には受戒を受ける必要があります。
受戒する僧侶には、
- 責任を持って指導する和尚一人
- 受戒の儀式を主催する羯磨阿闍梨一人
- 受戒する人に問題がないか調査する教授阿闍梨一人
- 立ち会う僧侶七人
の合計十人の僧侶が戒壇上に立って儀式を行います。
具足戒の内容の一部
具足戒とは「完全に備わった戒」という意味で、釈迦が制定したとされる戒です。
戒の内容は四分律(しぶんりつ)、五分律(ごぶんりつ)、十誦律(じゅうじゅりつ)、摩訶僧祇律(まかそうぎりつ)、根本有部律(こんぽんうぶりつ)などから知ることが出来ます。
出家者の男性、比丘が守るべき戒律は250戒、出家者の女性、比丘尼が守るべき戒律は348戒あって、生活の規律の細かいところまで決められていますが、そのうち四波羅夷法(しはらいほう)と言って破戒するとただちに教団から追放となり、再出家も許されないという四つの戒について説明します。
- 婬戒…性行為をしない
- 盗戒…他人のものを盗んではいけない
- 殺戒…生き物を故意に殺してはならない
- 妄語戒…嘘をついてはいけない
釈迦の在世中は特に戒律などはなく、誰でも出家出来ていましたが、出家者にとって戒律が出来たのは、釈迦の教団が出来てから十三年目のことで、ある事件がきっかけになったそうです。
それは家系を絶やさないでほしいと母親に泣きつかれた比丘が、出家する前の妻と子供を作る行為をなすという事件のことでした。
それに対して釈迦は、「たとえ毒蛇の口の中に男根を入れることがあっても、女根の中に入れてはならない」とその比丘を呵責し、ここに初めての禁戒である淫戒(いんかい。淫をおこなってはならない)が制定されたのです。
この戒があるために我が国でも明治時代までは僧侶の妻帯は許されず、子供をもらってきて後継者として育てたり、弟子として入門した小僧を育成して後継者にしていたのです。
戒律を守ることについて
戒律は仏教徒として正しい生活を送り、秩序と平和な世界を保ち、悟りを目指すためにあるものですが、私達に本来備わっている煩悩は戒律に反することばかりが次々と湧き出てきます。
戒律の抜け道
仏教は正しい智慧を身につけ、その智慧で様々な悩み苦しみを解決していくことが出来ますが、智慧も使いようで、悪知恵と言いますか、自分にとって都合の悪いことを都合の良いように解釈して、それで良しとする人が必ず出てきます。
禅の一休さんなどは漫画やアニメになるほど人気で、「是のはし渡るべからず」の看板のある橋の真ん中を堂々と渡り、「端は渡っていない、真ん中を渡った」と説明するなどの数々の有名な逸話が残っていますが、仏教の智慧と言うものは私達の考え方や生活を豊かに楽しくしてくれるのです。
お酒を飲みたい僧侶がお酒のことを「般若湯」(はんにゃとう)と言って薬だと説明したり、肉を食べたい僧侶が馬肉を「さくら」鹿肉を「もみじ」猪肉を「ぼたん」と言って植物の名前に変えたりと昔から戒律の抜け道を考え出す人が居て、戒律は破っていないと主張しますが、それほど戒律と言うものが守りにくいということなのです。
戒律を守るには
肉食妻帯を許されて高級車を乗り回し、贅沢三昧の僧侶が目立ちますが、仏教の規範としての僧侶がそのような状況では戒律を守る人が居なくなります。
しかし今の我が国の仏教は釈迦の当時の純粋な仏教ではありません、タイの僧侶の方がよっぽど戒律を守った生活をしている現状からすれば、出家した僧侶の役割が違うという所に行きつきます。
しかし私達がこの世に生まれてきた理由と、何をしなければいけないのかと言う使命、そしてこれから先何処に向かうのかということを真剣に思えば思う程、私達は仏法に根差した生活をするべきだということが分かります。
戒律は決められたものではなくて、自主的に守るべきものであり、仮に破ったとしても真に懺悔して悔い改めるということが大切なことなのです。