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チベット密教とは
チベット密教とはチベットを中心に発展した仏教の一派で、チベット仏教とも言われます。
チベット密教の歴史
チベットには7世紀になって仏教が伝来したことからチベット仏教の歴史が始まります。
吐蕃国と仏教
7世紀初頭に現在のチベットにあった吐蕃(とばん)のソンツェン・ガンポ王(581-649)がチベットの統一を成し遂げると、唐から嫁いだ王妃の文成公主(ぶんせいこうしゅ)とネパールから嫁いだチツンを皇后にし、両皇后のすすめによって仏教に帰依することになり、首都のラサにトゥルナン寺(大昭寺)を建立しました。
トゥルナン寺の建立によって仏教は栄えることになり、やがてティソン・デツェン(742-797)には仏教が国教として定められ、国立大僧院であるサムイェー寺が建立されてからは、インドのナーランダ僧院の長老シャーンタラクシタが招かれ、パドマサンバヴァは密教を伝えました。
シャーンタラクシタの弟子カマラシーラもインド伝来の仏教を引き継いで正統派とされ、サンスクリット語の経典をチベット語に翻訳する壮大な事業となり、やがては膨大な量のチベット大蔵経が出来ていったのです。
吐蕃国の滅亡
822年になって吐蕃国は唐と国境、和平の条約を結んで間もなく国内に於いて仏教を巡っての対立や王位継承の争いから南北に分裂後、滅亡に至りました。
吐蕃王朝が滅亡した後には仏教は衰退し、当時のインドで流行していた性瑜伽やヒンドゥー教のシヴァ神のシャクティ(性力)による呪術的修法を説くタントラ主義が流行したのです。
11世紀になってインドから入国したアティシャとその弟子のドムトンらによって乱れた仏教界を正すべく戒律復興運動が起こって出家者の教団が形成されました。
この頃には般若経の解釈学をはじめ、唯識や如来蔵思想、中観思想などの哲学的論争が盛んに行われるようになりました。
マルパとミラレパらによってインドのナーローパやマイトリーパ直伝の後期密教が伝えられ、カギュ派が成立しました。
サキャ派
1240年にはチベットはモンゴル帝国の侵攻を受けたがモンゴルへの布教に成功し、サキャ派はその後ろ盾を得てチベット全土を支配していました。
カギュ派
1368年にはモンゴル帝国元朝が崩壊してカギュ派系のパクモドゥ派が中央チベットに政権を確立しました。
ゲルク派
ツォンカパが1400年頃にゲルク派を創設して当時流行していた過度のタントラ主義を否定し、厳格な戒律を守る出家修行を重視して、僧院を修行の基盤とする教団を組織しました。
四大宗派とは
チベット密教には四つの大きな宗派があります。
- ゲルク派…ダライ・ラマをトップとする最大宗派で開祖はツォンカパ、戒律重視、僧侶の妻帯禁止
- ニンマ派…最も古い宗派で土着のボン教の影響が強く、開祖はインドの密教行者グル・リンポチェ
- サキャ派…化身ラマ制度ではなく世襲で継承
- カギュ派…密教色が濃く、化身ラマ制度を始めた宗派で多くの分派あり
輪廻転生
輪廻転生とは六道と言われる地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天界の中で生まれ変わり死に変わりを繰り返すことです。
私達は何処から来て何処に向かうのでしょうか、死後の世界はどうなっているのでしょうか、その答えを出してくれる経典が「チベット死者の書」なのです。
チベット密教の祖師であるパドマサンバヴァ(8世紀)が霊的な啓示を受けて書き出した「チベット死者の書」は正しくは「深遠なるみ教え、寂静尊と憤怒尊を瞑想することによるおのずからの解脱」と言い、弟子のイェシェツォギェルによってガムボタル山に埋蔵したとされる「埋蔵経」です。
埋蔵経とは末法の世になって仏法が滅びても、仏法が必要な時代になれば発掘されて世に広まるという経典のことです。
チベットで死者が出ると今でも死者の枕元で枕経として四十九日の間師僧であるラマによって毎日詠まれるチベット死者の書は、実用的な経典として使われており、死者を解脱に導く方法、或いは解脱できなくても良い生まれ変わりに導くための方法を説いているのです。
輪廻転生は全てのことに及び、ダライラマなどの高僧が没した時には生まれ変わりの者を探すということが今でも伝統的に行われています。
チベット密教の特徴
チベット密教では護摩を焚いたり曼荼羅を描くなどで病気を治す、厄を払うなどの現世利益の修法を行います。
また性のエネルギーを悟りのエネルギーに昇華させるべく男尊と女尊が抱き合った仏が出現することで密教の神秘性を感じます。
化身ラマ、活仏
化身ラマとは衆生を導き救済するためにこの世に人の姿として現れた如来、菩薩の化身で、リンポチェ、活仏とも言い、ラマとは師僧のことです。
化身ラマは人としての生涯を終えても転生すると言われ、化身ラマが遷化するとその弟子が夢のお告げや生前中のラマの予言などによって転生者を探し、候補者としての児童には先代ラマの遺品を選び取らせたり、特徴的な仕草や言動などを見極めた上で正式に認定されると、一般人とは切り離された英才教育を受けることになります。
生きた仏という意味で活仏と言われますが、仏教の重要な指導者の立場でもあるのです。
化身ラマは人が輪廻転生するという定めの中で、何時の時代も仏の使命を持った魂が人の姿であり続けるという運命を事実として捉え、信仰として受け継いでいるのです。
曼荼羅
密教の曼荼羅は金剛界と胎蔵界の曼荼羅がよく知られていて、チベット密教では経典に応じた様々な曼荼羅が存在し、美しい色彩と構成から美術品としても有名ですが、本来は瞑想修行を行うためのものなのです。
チベットでは砂曼荼羅と言って色の付いた微細な砂を使って曼荼羅を描く修行があり、神々の住まう楼閣などを瞑想の中で感じ取って描くのですが、当然手本など無く、描き終えたら壊して消してしまうのです。